【㈱ご近所プロフィール】
2012年に創業した会社で、ウェブサイト制作や地域活性化イベントのプロデュースを行う。丹波チャレンジカフェの起業者インタビューなども行っている。当初は社員全員が都市部からの移住者で、インタビューを受けた恒松氏も滋賀県出身で、大阪での勤務を経て丹波市に移住。 |
―特徴的な社名ですが、社名の由来、思い入れなどを教えてください。
(恒松)
「地域のご近所さんになる」という思いを込めています。それに、会話のネタにもなっていますね。初対面の方とでも社名の話で場が和むというか。例えば、「ご近所です」と言うと、だいたい聞き返されるんです。そこから、「えーっとですね、隣近所の”ご近所さん”と同じ、あの”ご近所”です。すみません、ややこしい名前で…」というような会話が定番で、それでお互いにほぐれて話もスムーズにいくみたいな。
―でも丹波市内、この辺りでは結構浸透してきた感じはありますよね。創業当初から変わった点をお聞きしたいのですが。
(恒松)
一番、変わったのは人員体制でしょうか。当初は、丹波の魅力を都市部目線で発信するという意図で移住者であることが入社条件で、スタッフは多い時で10名いました。今は、大阪を拠点とする代表と丹波を拠点とするスタッフ3名と少数です。その分、外部パートナーが丹波地域にも阪神地域にもいて頼りにしています。代表は丹波にもつながりを持っていますが、大阪に拠点があることで都市部のネットワークを引っ張ってこれるところが強みです。
【お話を伺った恒松さん】
―恒松さんの名刺の大阪←→丹波というのは。
(恒松)
当初、「スタッフ全員が移住者の会社」ということを象徴する意味で、丹波ともうひとつの活動拠点、例えば丹波に来る前に暮らしていた地域や、今も関わる活動拠点を載せるという名刺ルールがあったんです。私は滋賀県出身ですが、大阪で働いていて滋賀よりもそちらに縁が強かったので大阪を載せていました。
―イベントをプロデュースしたりウェブサイトを作ったりすることがあると思うのですが、シリ丹バレーの目指す起業家と集落の連携に関して、自治会組織やコミュニティビジネスみたいなところで付き合いが広がってきたところはありますか。
(恒松)
自治会組織などから会社に問合せがくることは非常に少ないです。個人的に地域の人とつながって、一緒に活動をして話をする機会が増えたりすると、「恒松さんが働いているご近所さんって、デザインやってるの?夏祭りのチラシとかお願いできるの?」と聞かれたり。その時に初めて、その方が自治会の担当をしていることを知る場合もあります。みなさん一つの組織ではなく複数の組織で様々な役割を担ってますから、組織ではなく人対人との付き合いで広がる感じです。
ご近所だけではありませんが、ソフト事業は誰がどこで何をやっているのかが知られていない状態で、相談や依頼をしたい人は沢山いるのに、誰に相談したらいいのか分からない状況に陥っているのかもしれません。事業所や人材の見える化ができていないというか。たぶんそこのその両者の橋渡しをしてくれているのが、地域の事業所とのつながりがある商工会なんじゃないかな思います。
―他のところでは、住民側の情報リテラシーが十分ではなくて、地域のコミュニティの相手をするのがなかなか大変だと聞きました。
(恒松)
大変なことはないですが、「パソコン作業ができる=パソコンのことを何でも知っている」と思われがちでなところがネックです。頼ってくれるのは嬉しいけれど、相談を受けても解決できない場合もありそれが心苦しいというか。
地域のコミュニティに関わるという点でいうと、佐治倶楽部(丹波市青垣町佐治)という活動に個人的に加わってから、地域の人とお話しする機会が増えました。そうするとパソコンやホームぺージの相談を受けたりするのですね。依頼と言うよりも、どうしたらいいかなぁという相談なので、自分の知識やスキルの範囲で乗れる相談に乗っている感じです。
また、似たような相談がふたつみっつ重なると、ブログやSNSを開設するワンコイン勉強会をやってみようかなんて話に繋がったりします。個々に対応するのは難しくても、勉強会にしてしまえば同じような悩みを抱える人が一度にスキルアップできるし、こちらとしても「相談」から「仕事」になる点が良いですよね。
―商工会の話が出ました。チャレンジカフェのページを作られたかと思いますが、それをご覧になって、感じられたことはありますか。
(恒松)
丹波は、地元の方だけでなく、他所から来て起業する方も沢山いて、すごく活発だと感じています。できれば、起業の事業計画段階で、ご近所のような販促・PRをやっている会社が関われたらいいなと。例えば、融資を受けて起業する時に、名刺や会社概要の作成費を初期費用として入れていなくて、起業してから必要だと気づいて、想定外の予算で動かざるを得ないこともあるらしくて。それに起業するときのサポーターはいろんな分野の人が関わっているといいんじゃないかと思って。
―ゲスト講演などされたりするんですか。これから起業される方にとっては、ご近所は先輩企業(起業)的な立ち位置だと思いますので、話を聞きたい人も多いのではないですか。
(恒松)
ご近所は、移住希望者から相談されることが多いですね。ウェブデザイナーなどパソコンがあればどこでも仕事ができる人から、仕事の仕方や、丹波という市場の中で、デザインで生計を立てることができるのかどうかなどを聞かれたり。
―やっぱりそうなんですね。不思議だったんです。働いている方が移住者というのはあるんですが、なぜこの会社が移住の仕事をされているのかが。実際、ここで働きたいという相談があったりするんじゃないですか。
(恒松)
ありますね。ウェブサイト制作や写真撮影やライティングなどの仕事で。ご近所で働きたいというわけではなかったとしても、フリーランスとして関われないかとか、募集していませんかという問い合わせもありますし。昔は、デザイナー、プログラマー、ライター、カメラマンも社内にいましたが、今は外部パートナーと協力してものを作っていく方向に変わっています。なので、関わりたいと問い合わせてくれるのはありがたいです。
【ご近所2階にある執務スペース】
―話は戻りますが、地域への浸透具合、以前はご近所って何なんだろうということもあったと思うんですが、今、仕事の相手として力を入れているところは。
(恒松)
地域への浸透具合は、まだまだ地道に広げていく感じです。仕事内容によっても広がるスピードが変わります。取材やイベント運営などの仕事で出会う方が増えると知ってもらえる人も増えますし。
仕事内容は、以前はゼロからものを作るということをやっていました。企業や行政のウェブサイトを作るとか。イベントとかもそうですけど。そういうゼロ→イチの仕事です。今は継続する仕事のほうが多いですね。例えば、既存サイトのインタビュー記事の更新、SNSを発信したり、定期的にマーケットを開催したり、地域の企業へ週一で出向して広報担当として役割を担うというような、長く寄り添い続けていく仕事が主軸になっています。
―そのほうが理想なんでしょうね。一回の付き合いで終わるより。
(恒松)
ホームページを作って終わりではなく、そこから情報発信しないと意味がない。でもそういうのって、皆さんなかなか手が回らなかったり、何を発信したらいいか分からなかったりするので、そこに一番力を入れてサポートしています。長く寄り添い続けることで、長期的な視点でより戦略的な情報発信に取組めますから。
―仕事を依頼する側としては寄り添ってほしいということがあると思います。恒松さん自身は、集落、自治会などの活動をされたりはしていますか。あるいは個人的に頼られたりしませんか。
(恒松)
毎日パソコン仕事をしている身としては簡単にできることも、パソコンに不慣れな方は億劫だと感じる部分などをお手伝いする場合があります。送付状をつくったり、住所録をつくったり、5分~10分ででるような作業で喜んでもらえるなら、わたしも相手もウィンウィン。チラシなど依頼されたことはないですが、「相談」と「仕事」の線引きが分かり難いものもありますよね。
―特に田舎だとその辺りが曖昧になるんでしょうね。
(恒松)
でも、私はそういうところに小さい課題の芽みたいなものを感じていて。農業者の方と何気なく喋っているなかで、農家さんにとって事務って大変なんだなとか。得手不得手だけではく時間的にも。パソコンに慣れている人なら、ぱぱっと作れるようなものも手間に感じているんだなとか発見があります。
そしてそこには、1人雇用するほどの仕事量はないけれど、週2時間くらい事務をしてくれる人がいたら助かるという潜在的なニーズがあるかもしれない。だとすれば、月額1万円なり2万円として、例えば20軒の農家さんの事務をアウトソーシングすれば、それなりの大きな仕事になるのではないか。そういう隙間仕事を小さな課題から感じます。
―我々が付き合いのある自治会も、農業も同じような課題を抱えています。まさに聞きたかったのがそこですね。実際に丹波に住んでみて、田舎の課題、会社として付き合って見えてきた課題ってありますか。
(恒松)
農家では、他でも同じだと思うんですが、情報発信の格差が生まれていると感じます。移住して農業をされる方は若い方が多くて、SNSなどを使って情報発信ができるし、さらにイラストレーターを使って自分でパンフレットを作ったり。自分は使えなくても、デザインができる友達に依頼したりとか。その一方で地元の年配層の農業者の方は情報発信が苦手な方も多いような気がします。
【春日町中山にあるご近所のオフィス】
―人材育成的について。昔の記事を見ていた時に、会社として地域のプロデューサーとなる人間を育てていくだとか、中学生とか高校生の育成についても書かれていました。
(恒松)
創業当時は、ご近所自体にインキュベーション施設のような意味合いがあって、在籍中にネットワークやスキルを積んで、地域に羽ばたいていくという構想があったんです。
今はご近所というよりは、「丹波ハピネスマーケット」という定期市を開催していて、それがいろんな関わりしろになっています。例えばマーケット情報を発信するブログでは、丹波地域のランチやイベント、アクティビティなどの情報も発信していて、ハピネスブロガーという人達が記事を書いてくれています。ブロガーの方は地域の女性の方が多くて、小さい仕事だけれども、自分が行ってみたいお店やイベントの記事を書いて、ローカルメディアですけど自分の名前で発信ができて、お金も幾ばくか入る。人材育成ではありませんが、自分の活動の場をひとつ持ってもらうという感じかもしれないですね。ほかにも、地元の高校生が地域活動のひとつとしてマーケットのボランティアスタッフとして参加してくれたりもしました。
【丹波ハピネスマーケット】
―以前やられていたクリエイティブセミナー(オフィス1階で月1回程度、デザイン、インターネットショップ運営、地域づくり等、社員以外の地域の人に参加してもらう“つながる場”)は。
(恒松)
以前は、ご近所は人が集まる拠点みたいな感じだったんですけれど。今は、人が集まる拠点も増えたし、それに丹波ではFacebookがコミュニケーションツールになっていて、Facebookのおかげで、企業や団体にかぎらず個人でも主催でもできるくらいにイベント開催が身近で手軽になったような気なします。なので、今はご近所に人が集まるというよりは、皆が色んなところの活動に参加して、そこでつながった人と仕事が始まる感じのほうが多いですね。
―初期の頃は、都市部の方をここは採用していて、田舎のPRには外からの視点も大事で。都市部とのコミュニティのつながりを奨励しますみたいな話があったんですけど、そのあたりもちょっと変わってきているんですかね。
(恒松)
決して都市部の視点を持たないわけではないですし、これは私の勝手な考え方ですけど、どこかの企業のお仕事をする時に、社内の人には当たり前のことでも、社外の人が社内に片足を突っ込んで、もう片足を世間に突っ込むだけでも、視点が会社寄りにならずにバランスが取れたりする。都市部に関わらず、世の中と会社の両方に足を突っ込みながら、やりたいことを応援していく感じですかね。もっと広報の原点に立ち返るという。
―ブログを見ていると、地域の企業で仕事をしているのは。そういう、どこかの企業に出向で身分を置くというのは前々からあるんですか。
(恒松)
出向スタイルでのお仕事の相談をいただいて、まずはやってみようということで始めたのが約2年前で、主に情報発信業務を行っています。この仕事スタイルの良い点は、打ち合わせだけでは知ることができなかった社長やスタッフの方の思いが、日々を共にすることによってぽろっと聞けたり。共有できることがより深くなりますね。広報業務の中では大事な視点ですし。また、広報だけでなく、出向時間内で臨機応変に、「これできる?」に応じられる点も重宝されているのかもしれません。ネットショップの立上げやPOPの制作、ときにメールアドレスの設定などもやることがあります。
―以前、IT企業をたくさん誘致して大路バレーにするんだ、みたいなことを言われていました。そういう将来構想として、今現にプランがあるなしに関わらず、何かありますか。
(恒松)
ご近所は情報発信とデザイン、イベントが得意ですけど、例えば他にも特許とか法律関係が得意な人、建築が得意な人、商工会や銀行の担当者などが徒歩圏内で地域の中に集まって、かつ、全員知り合いだったら、話が早くて起業する人がスムーズに動き回れて支援を受けられるなと感じています。そういうことに将来的に関われたらいいなと思います。
―恒松さんが農家の方に関わるとおっしゃっていたのは、場所でいうとどのあたりの方が多いんですか。農家さんからどんな話があって、そこへ出て行くことになるんですか。
(恒松)
地域でつながっているわけではなくて、一人ひとりの方と仕事や個人的な出会いを通じてつながってきました。例えば地域の活動で一緒になった方、取材で知り合った方、運営するイベントやセミナーに参加された方、農家さん同士のネットワークで紹介してもらった方など。
とくに行政からのお仕事では、農業・農産物のPRや販促支援に関するものが多く、取材やイベントで何度も顔を合わせる農家さんが増えてきて、親しくなる場合があります。
農産物のリーフレットやパッケージのデザインのお仕事をいただくこともありますし、反対に、ご近所がイベント出店のお願いをしたり、商品をイベントで使わさせてもらったりすることもあります。
―行政の話も出たので。行政としてこんなことをやってほしい、これは民間ではできないといった話があれば。今すぐどうにかできるわけではありませんが、このプロジェクトが2030年に向けた息の長いものなので、できることはやっていきたいと思っています。
(恒松)
ここの家賃補助制度も使いました。知らない制度もありますが、何となく、ゼロから作るものを応援するというイメージがあって。継続しているものを応援してほしいのに、そこに対する支援があまりないような気がしています。例えば、丹波地域の観光情報系のサイトって沢山あるんですよ。2~3年で更新が止まっているものもあってもったいない。継続することこそ大事だと思うので。
―うちが作っているのもあるし(笑)
(恒松)
どんどん新しいものが生まれて、かつ更新されずにそのままになっている、ウェブは特にそうなりがち。だったら、頑張っているところを応援してもらったほうがいい。ご近所がやっているハピネスマーケットもそうだし、継続しているものを応援してもらえたら嬉しいなと。
あとは、どんな支援があるのかを知らないというのが一番大きい気がします。最近ようやく、市の商工会の素晴らしさ気付かせてもらって。色々お願いしたり、こんなことやりたいんですが補助金とかありませんかと聞いたり、そうしたらすぐ教えてくれたりして。そういう術やサポートしてくれるシステムに気付かずに、自分で頑張ってお金を出してやったり、できないと諦めることが多いと思うので。
―地域の役に立っていることを一番実感できる時ってどんな時でしょうか。会社としてでも、個人としてでも構いません。
(恒松)
きっと、新しいお仕事をいただいた時じゃないかなと思うんですけど、自分達の前の仕事が評価されて、次の仕事につながるからとか、誰かから「ご近所にお願いしたら」と言われたから来たんだとか。それはご近所が役に立つと思って紹介してくれているわけなので。イベントとかに人がたくさん来てくれた時も。
―晩酌女子の話を聞かせてください。
(恒松)
豪雨災害により被害を受けた市島の酒蔵を復興させるという仕事をいただいたんですね。単に酒蔵のPRをするだけでは物足りないので、晩酌女子というネーミングを作って、「女の人が家で日本酒を飲んでるけど、いいやん別に」みたいな開き直りのコンセプトで作ったのがこれなんです。
その後、酒造組合から、年1回、丹波の酒を楽しむ会というイベント企画に関わってくれないかと言われて。元々は酒造組合がホテルや旅館、飲食店に向けて丹波の酒の魅力伝えておもてなしをする会だったんですけど、一般の私たちの世代に飲んでもらってPRするのも面白いんじゃないですかって、日本酒好きの女性限定で、SNSでの情報発信も絡めてイベントをやったんです。最終的には50名くらいまで広がって、すごく人気のイベントになりました。
【晩酌女子でのイベント出展】
―今、晩酌女子を名乗っている人って何人いるんですか。
(恒松)
会員制ではなくて、私も隠れ晩酌女子です、晩酌女子の仲間に入れてくださいという共感を得ることも多くて、ふわっと軽い感じです。ただ単なるPRよりもコンセプトを立てたほうが面白いかなと。
―名刺のVol.3というのは?
(恒松)
これは絵が違っていて、私なんですよこれ(左下のキャラクター・丹波モミジビエ)、一応。10版まであります。最初はおしとやかに飲んでるんですけど、段々乱れてくるんですよ(笑)そのうちクダをまいて、最後は座布団を枕にして寝落ちするというところで終わる。
【恒松さんの名刺。右がvol.1、左がvol.3】
―10回もらわないと揃えられない。前にもらったやつは何番だったのか(笑)
最後の質問ですが、うちの会社に頼めばこんなお手伝いができますよとか、こんなことに困っているならこんな人を紹介しますよとか、そういう提案はありますか。
(恒松)
PR会社って漠然としてて何をしてくれる会社なのか分からないかもしれませんね。広告会社のイメージもありそうですし。自分の会社や商品を世の中にもっと広めたい、知ってもらいたいけど、どうしたらいいの?と悩んでいたら、相談してもらえたら嬉しいです。
届けたい人に情報を届けるには、チラシが良いのか、SNSが良いのか、イベントが良いのか、パッケージづくりが良いのか、マスメディアが良いのか、そこから一緒に考えて取り組みたいと思っています。
大したお話もできず。自社がちゃんとしていないと、他の会社を発信している場合じゃないんですけど(笑)
―飲んだ方がいいかも知れませんね(笑)今日はありがとうございました。
㈱ご近所
丹波市春日町中山192-1
恒松 智子