【安達鷹矢さんプロフィール】
大阪府高槻市生まれ。楽天㈱を退職後、2011年に丹波篠山市に移住し、NOTEで勤務。その後フリーで福住地域のPR、移住相談、WEBを中心としたコンサル業等に従事。 |
―これまでの安達さんの取材記事を見ていると、ご自身の移住体験やライフスタイルなどが紹介されていますが、今日は、起業したい人が起業できるということはもちろん、地域課題の解決のために起業家の方のノウハウを共有するというか、起業家の方の活動を知らない住民の方もいらっしゃるので、上手くつなげていけたらと思っています。今安達さんがメインで取り組まれていることは何になるのでしょうか。
(安達)
基本的には地域のPR、Public Relationsを手がけています。大きく分けて、①自社・自分の地域の事業と②委託事業があります。
①自社事業では、福住でLittleaf(リトリーフ)というセレクトショップと妻がリラクゼーション、それからシェアハウスとシェアオフィスを運営しています。セレクトショップでは、僕がこっちに来てPR関係の仕事やプロモーションの委託を受けた事業者のものを中心に扱っています。また、福住の隣の後川で「NIPPONIA 後川 天空農園」という一棟貸し宿を準備していて※1、うちで経営する予定です。自分の地域で兵庫県の先進的移住モデル推進地域として福住の「移住コーディネーター」、NOTEのエリアマネージャーのお仕事も頂いています。
②委託事業では、丹波市の移住定住促進業務のPR関係、丹波篠山市今田の丹波焼作家さんたちの事業PR、三田市の浄水器メーカーのベトナム進出をPRサポートしたりしています。
【Littleaf(リトリーフ)外観】
【Littleaf(リトリーフ)店内】
―後川の天空農園は、以前火災で焼失してしまったところですよね。NOTEは以前働かれていたと聞いていますが、今でもそういうつながりがあるんですね。
(安達)
そうなんですよ。最近はずっと自分で事業をしてきていたんですけど、福住のNIPPONIAの事業が始まったときに、元々のよしみで、福住のエリアマネージャーをやりたいと僕も言って、NOTEの皆さんからも是非と言ってもらって、久々に復帰しました。それから後川の声もかかって、二つのエリアをやっています。
―シェアハウスも運営されていると聞きました。
(安達)
これは3年目ですけど、全員4人が移住者で福住に住んでいます。これからの構想ですが、テレワークのための、田園風景が広がるコワーキングスペースと、その周りに利用者が住める、風呂・トイレ・キッチンまでプライベート空間を一人で使えるコンドミニアムのような、古民家レジデンスをいくつか作っていきたいですね。
イベントでは、住吉神社ビアテラスという名前で、この辺りのクラフトビールをメインにしたビアガーデンをやっています。また、準備中のものとしては、ネットショップと、丹波篠山エリアの情報発信をするサイトがあります。
【シェアハウス外観】
(安達)
シェアオフィスから見えるやまゆりホームさん(特別養護老人ホーム)※2の建築は、才本先生(建築家、劇的ビフォーアフターに出演した「匠」)のところで働いている、移住者で建築士の卵がうちのシェアハウスにいて、福住に来る前にここの図面を書くのを手伝ったそうなんです。
【3階から見た南側(建設中のやまゆりホーム)】
―移住関係の仕事もされていますね。県の事業では、戦略的移住推進モデル事業のコーディネーターをしていただいていますが。
(安達)
移住関係の仕事は6年くらいやっているんですが、丹波市の一般社団法人Beと㈱ニュービレッジ計画と一緒に、LLPを立ち上げました。丹波市移住相談有限責任事業組合。共同代表もさせていただいて、仕事を委託でいただいています。
―仕事は基本的にLocal PR Planという会社の中で、ということですね。委託事業は別として。
(安達)
Local PRという点では周辺地域、例えば三田市でやっていることもあるのですが、自社事業についてはこのエリアに集約しています。キャリアとして縦積みしていくときに、やることを絞るのではなくてエリアを絞って実績を積んでいこうと。
―社名の由来や思い入れがあれば教えてください。また、ビジネスモデルとしてはどのような形態ですか。
(安達)
2017年にNHKのドキュメンタリー「U-29」に「ローカルPRプランナー」として取り上げてもらい、当時からフリーランスでやっていた仕事を会社名にしました。Localは自分のキャリアや個性として「場所」を、PRはプロモーションではなくパブリックリレーションのことで「様々な関係者と良好な関係を築くこと」、PlanはPDCAサイクルのPlanを取って、計画から実行、改善、さらに計画まで自社でやることを意味しています。制作や運営だけという仕事は受けず、企画からやります。
地域の事業者のサポートをして、そこが売れれば売れるほどうちの収益も上がるような契約にしてあるので、あまりたくさん新規顧客を取ろうとは思っていません。うちよりもお客さんが目立ってくれた方がいいので。講演などでお話ししてください、みたいな依頼もいただくんですけど、どう紹介していいのか分からないです(笑)
僕の中でこのエリアをこうしたいというイメージがあるとするじゃないですか。ここのシェアオフィスもそうなんですが、西本君がオフィスとして使える場所を探しているんですと。僕はIT業者が住んで働ける地域にしたいという思いがあって、じゃあちょうどいいね、一緒にやろう、みたいな感じでまずスタートして一緒に形にしていっています。最初、アイデア的にやりだしたのはLittleafみたいなショップですけど、エリアに必要なものを、色んな人を呼んできて形にしていく。他の方の持ち込みの企画をうちが全部やる、ということはあまりないですね。
【オフィスをシェアする西本さん(右)と】
―個人または会社として、福住での存在意義をどのようにお考えですか。地域に足りないものとか、自分だからできることとか。
(安達)
僕は足りないと思って来たわけでもなく、ここに住みたくて住んでいますが、ここ出身の方で都会へ出て、仕事は都市部でやりますという人も多いですよね。都市部にずっといて、帰ってきたいけど仕事がないんです、みたいな人も結構話を聞いたりします。
僕は23歳で会社を辞めてこっちに来ているので、そういう話に対しては、解決方法を色々知っています。次に来る人が来やすくなるような準備はできるんじゃないかなと。地元にずっと住んでいると見えづらい視点もある。
例えば、ずっとこの辺りに住んでいる人が新しい事業を立ち上げると、ものすごく内需を取るモデルになりがち。100円でコーヒーが飲めるとか。そういう店に東京で働いている人が来るかというと来ないので、地域の声として安く気軽に使える憩いの場が欲しいという意見を尊重しつつも、若者が来て、ちゃんと仕事をして稼げるようなものを作っていくことをやっていきたい。
福住では、外から人を呼んでお金を稼ぐために、同じ移住者の星野さん、長井さんと僕とで、「住吉神社ビアテラス」というイベントを5年くらいやってきています。新しいお店ができたときには出店しませんか?と呼びかけたりして、一緒に地域外の方のおもてなしをしていく。全体的に福住が、外から人を呼んでお金を稼ぐという空気感にはなってきたかなと感じています。他のエリアで内々を向きすぎているところを見ると、このままでは集落の維持というか、仕事としての維持はできないな、と思うときはありますね。
―今言われてはっとしたところがあります。行政の補助事業でも、もしかすると内向きになっているところがあるかも知れません。
(安達)
ITになじみのある世代とそうでない世代でかなり違うんじゃないかなと思います。自治会主導のビジネスモデルって商圏を近いエリアで考えがち。僕らの世代はITがあるから、情報を届けられる範囲が無限に広いですが、自治会主導だと新聞の折込み広告くらいが限度で、あとは口コミとか。これは仕方がないけど、やはり域内人口が減少し、所得も減少していくエリアで持続可能ではないし、そこに働きたい若者が帰ってくるまちにはならないので、もったいないなと思うこともあります。
―確かに、コミュニティビジネスだけで終わらせないというか。
(安達)
そう。今、コロナでインバウンド停滞しましたけど、外貨を稼ぐのはとても大事です。今話しているのは国外ではなくエリア外の「地域外貨」ですが、ビジネスとしてお金を稼ぐには利益を上げないといけない。コストを下げて、なおかつ売上を増やしていこうと思ったら、地域では当たり前になっている景色や産品等の資源を価値として捉え、運用コストを下げること。それから売上を上げるためには顧客となる地域の中に住んでいる人の数を増やすことや、所得を上げることで域内にある所得の総量を増やすことと、集客する人の範囲を広げて地域外貨を稼ぐという方法がある。それを両方ともしないで衰退している地域でビジネスだけを始めてしまうと、やってみたもののお金をもらう場所がないという話になってくるから、それでは難しいですよね。
―この通り沿いでも色々なお店ができていますが、今のようなお話を皆さんでされる機会はありますか。
(安達)
分かりづらいんですよね、僕らのやっていることって。シェアハウスの件も、家を借りたんですけど、「又貸しかい」みたいな話になったりとか(笑)。色々ありますが、どれだけ説明しても難しいところがあって。「同じ風呂とトイレなんて、わしは絶対住みたくない」とか(笑)。
未来を向いている人ではない普通の人に僕から喋ると言語が違いすぎて頓珍漢な話になってしまうことが多いので(笑)、どちらかというと地域のキーパーソン的な人達にしっかり伝えて話をしてもらうのがいいかなと。
―ここ(福住小学校)の3階はシェアオフィスになっていますが、ここを選んだ理由を聞かせてください。
(安達)
単純に景色がいいですね。特に3階は借りてみて、すごく良かった。ここ(音楽室)は角部屋なので、廊下分も居室になっていて広い。両側が窓なので明るいですし。今からDIYでオフィスの整備をしていきますが、使い方の自由度が高いのも魅力です。
【シェアオフィス(福住小学校3階の音楽室)】
【3階から見た北側の景色】
(安達)
こっちに移住してきて、ずっとオフィスがなかったんで、デスクトップも買って、オフィスで仕事するってこんなに仕事がはかどるんだと(笑)コタツのテーブルにノートパソコンでずっとやってたんで。
【シェアオフィスのデスク】
(安達)
ここは何人か、何社かでもいいですけどシェアすると安く上がります。この場所を使って賃貸しで稼ぐというよりは、皆で使うと大きなプリンタを使えたりとか、ウォーターサーバーを置けたりとか、カメラの撮影スペースを作ったりとか、お金のかかる便利なものを共有してコストを抑えられます。
本当は、ここ3階の教室は全部ITの会社にしようという話を佐々木さん(福住小学校を管理するNPO法人SHUKUBAの理事長)にはしたんですが。(SHUKUBAは)地域のNPOで、地域に説明しつつ使わないといけないので、全部ITは説明しづらいという話もあったりして(笑)
―ITと言っても、IT自体を目的としているというよりは、ITをツールとして使いながらの仕事になってきていますよね。
(安達)
コロナの影響で、普通の会社でもテレワークを始めて。例えばそれが恒常化するなら経理の部署とかバックオフィスの機能がわざわざ大阪の賃料の高い場所にいるメリットがないんですよね。作業して、報告はオンラインでやればいいという仕事であれば、こっちで月3万円でこの場所を借りたほうが絶対に固定費は安い。そういうことも含めて情報発信したいなと。できれば古民家レジデンスごと、1社が住める場所にしてしまえばすぐ会社を持ってこられるし、そういう使い方もいいかなと。もちろん従業員さんが田舎に住みたいと思っている、って話が前提ですが。
―そうすると、(シリ丹バレーの目的でもある)空き家と廃校を両方使ってビジネスをされているんですね。
(安達)
空き家といっても、このエリアはそれほど数が多いわけでもないので。というより、空くたびに事業者さんを仲介して、すぐに入って貰えていっているので。その意味では、むしろ空き家を待っているくらいの感じです。
―先程の古民家レジデンスのアイデアは、この地域から広げていきたいという思いはあるのですか。
(安達)
それは全然ないですね。僕はこのエリアのことを専門的にやっている人として、色んなことをやりたい。マンションの経営者として展開したいわけではない。めちゃくちゃ儲かるわけではないんですけど、何か新しいことをやるたびに、このまちが良くなっていくというのが僕の価値かなと思います。
―そうですね。集落としてもその方がありがたいですね。
(安達)
集落の人からすると、意味不明なことも結構あると思います(笑)最近は、「また安達君がなんかやりよった」みたいなことになっていたり・・(笑)
―でも、最初の頃に比べると、その辺の見方も変わってきたんじゃないですか。言ったらなんですけど、最初は変わった人が・・・とか。 前にご自宅に取材に行ったときも、前をうろうろしていたら、その辺のおばあちゃんが「安達さんか?」みたいな感じで(笑)
(安達)
本当に最初は、得体の知れない奴が来た、みたいな(笑)以前、雑誌(TURNS)に掲載された時(H28.12月)くらいが、やっと知られてきたかな、というタイミングでした。
僕も一個一個丁寧に説明するタイプではないので、最初の頃は地域の方から色々言われたんですけど、3~4年経つと僕自身も、地域が大切にしているルールとかが分かってきて結構上手くいく感じになって、最近は何も言われなくなってきましたね。「またお前変なこと始めたんか、何考えてんねや。」みたいな感じで聞いてきてくれます(笑)
オープンな人が多いと思いますね、福住は。移住してきた頃は、歩いていたら「兄ちゃん、見たことない顔やな。」ってしゃべりかけられて。そんなことあるんやなと(笑)
今でこそお店ができて地域外からのお客さんが歩きますが、以前、僕の住んでいる集落周辺は、知らない人が歩いていたら「安達が連れてきたんだろう」という感じになってましたね。
―これまでに使われた公的な支援についてお聞きしたいのですが、あまりこういう制度を使われているイメージがないですね。
(安達)
後川のNIPPONIAでは農林水産省の補助を頂いています(NOTEが計画書の作成とプロデュースをしてくれたもの)、それから妻がリラクゼーション事業をやるときに女性起業家の補助メニューに応募したことはありますが、不採択でしたね。私自身もあまり積極的に制度を使っていこうとしていない理由は、当たり前なことをやっても面白くないから、前例がないことを基本としてやるし、イニシャルもランニングも含めて基本的に自分でできるけれども、補助してもらえたら収益がでるまでのスピードが上がります、くらいの企画書でしか出さないので、不採択になりやすいのかなと思っているところはあります(笑)
―都市部で何が当たるかというところと、こういった場所で何が上手くいくかは、確かに分からない人には分からないですよね。
(安達)
ここに来る人のアドバイス、サポートもやっていますが、これがほぼ正解かなと思っているのが、イニシャルコストとランニングコストをできるだけ下げてスタートして、どれだけ長くちゃんと続けていけるか、ということ。知名度があったり、母体の会社が大きかったりするなら別ですが、新規事業者ならよほど外貨を稼ぐことが上手くなければ家賃に金をかけるようなモデルはここでは通用しません。
テレビや新聞は一過性のマーケティングになるので、ウェブでの記事とか雑誌に載るとかいうのをちょっとずつ増やしていくと、通年で勝手にくるお客さんの数が増えていきますよね。固定費を上げずに、通年で来るリピーターを増やすとベースの売り上げが立って、コストが低い分余剰が生まれて収益が上がっていく。その意味では、最初にどんとお金をかけて、1年目でこれだけお客さんを呼ぶんですというモデルは端から意識もしていません。
―仕事柄、そういう書類はよく見るのですが、今の話を聞いていると見方が変わってきますね。
(安達)
上手くやっている人を紐解くと、自費で長くやって、展開していくケースが多い。新規事業を精査して補助するよりは、既にこのエリアで3年くらいやっていて、ちゃんと売上を伸ばしている事業者に、割と用途自由で使ってもらうほうが、地域の活性化には役立つのではないかと思います。もしくは、予算つけるので新しい人を雇用してくださいと、その人の弟子を育ててくださいとか。
―兵庫県の場合、立ち上がりの支援が手厚いもの、何百万円とか、数年かけて何千万円といったものもあります。
(安達)
シリ丹バレーに関連したアイデアですが、緊急雇用とか地域おこし協力隊の予算でもいいですけど、例えば、今コロナで、職を失った都市部の料理人に毎月○万円の給料を保証しますと。週何日か、地域のイケてるお店で働いてもらって、半分くらいは農業をやってもらって、それを3年くらい保証して、このエリアで自身も飲食店を開業したら起業の補助金も出します、このエリア以外ならその補助金は出さないけれど、京都に戻って料亭に勤めるとかでもいいと思うので、例えばこっちの野菜を買ってくれる分には最初の一年間は30%県が見る、という話にしていくとか。
その方が、闇雲に新規事業に多額のお金を出すより、地域にも既に顔が売れてて、お客さんのボリュームもイメージできるし、仕入先も知ってる状態でスタートできるからいいんじゃないかなと思ってます。何より繁盛店のノウハウをしっかり学べるのがいいですよね。
―面白いですね。島根県でやっている「耕すシェフ」という制度がありますけど、あれも協力隊の予算を使いながら同じようなことをやっています。
(安達)
古民家のゲストハウスとかカフェとか、すごくできているじゃないですか。参入障壁が低いから乱立するんだと思うのですが同じものがいくつもあっても仕方ないかな、と思っていて。斬新なアイデアや確固たる技術を持った方の開業を優先してサポートしたいです。例えばこの近所だとマグナムコーヒーさんとかは、そういう「できることをまずやってみる」ような新規事業者とは製品のクオリティも表現のセンスも一線を画していて、福住に50件カフェが増えようが、あそこは変わらないと思うので最高ですよね。外からの評判でお客さんが来るので。そういう店を増やしたいですよね。
もしくは、おっしゃってくれた「耕すシェフ」さんのようにしっかりと下積みをして技術を磨いてからの開業をサポートする、そんな仕掛けをしていけたらなと思っています。
―ありがとうございました。
※1 2020年8月にオープン
※2 2020年9月にオープン。写真は取材時のもの。
㈱Local PR Plan
丹波篠山市福住1355
代表取締役 安達 鷹矢